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バカ丁寧化する日本語 -野口恵子ー

フランス語と日本語の教師である著者が、現代の日本語事情を憂えている書です。

他の著書からの引用からはじまってます。
「皆様にワタクシの政策をお訴えさせていただきたく…」
せめて「お」がなかったら、あるいはせめて「お訴えいたしたく」だったら、まだ救いもあったのに…
政治家のセンセイ方も日本語教室に通ったら?となっていました。
私も大賛成であります。

本書の中頃に「お願いを申し上げたいというふうに思います」というこれまた政治家が好んで使う口調が引用されています。
丁重になるように「を入れ」を多用する政治家が多いのだが、「を」が入ればいいかと言えばそうでもない。
丁寧さをなくせばこの言葉、「願いを言いたいと思う」という日本語としておかしな言い方になっているという指摘。
その通りですね。先の総選挙で頻繁に耳にし、多くの場合違和感と不快さを感じたことを思い出しました。

「ら抜き言葉」については「見られる」が正しかろうとも「見れる」が当然のように使われている昨今、大多数が使うのであれば、誤用も「日本語の変化」として通用することは認めているようです。
が、近頃流行の「…させていただきます」については許しがたいものを感じるそうです。
私も気になってしょうがありません。

実はこの言い回し、丁寧にへりくだっているようでいて「実家へ帰らせていただきます!」的な意味を持つこともあるし、オブラートにくるんで責任転嫁をしているとも受け取れます。慇懃無礼でもあります。
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言葉遣いが度を越して丁寧になるということは、相手との距離が遠くなることにつながっているように思います。
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石彫りの世界においても、観音様を壮麗な装飾品で飾り立てて豪華絢爛な姿に作り上げる彫刻家がいます。
それはそれで神々しいお姿となり、作者も賞賛され、見た目も素晴らしい仏像として後世に残るものとなるでしょう。
ですが、飾りっ気のない素朴な野仏に比べて、ちょっと遠くへ行ってしまったな、という感が否めません。
言葉に関しても、やたら飾り立てたバカ丁寧さが、距離が離れつつある人間関係を象徴しているような気がしてなりません。
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バカ丁寧化する事によって、文法上の間違いや助動詞の乱れが目に付くようになっているとも書かれています。
「さ入れ」が間違いと自覚されることなく使われています。
「…やらさせていただきます」など、聞き苦しい言い回しを頻繁に耳にします。

後半は尊敬語と謙譲語についての掘り下げた話が多くなり、少々退屈しました。
日本語の専門家としての筆者の思い入れは伝わってくるのですが、そんなに微細に述べられてもなぁ、という感じでした。
とはいえ、事例が多く引用してあったのでわかりやすくはありました。

バカ丁寧化とは少しズレますが、印象的な一文がありました。
学生に「教科書を忘れたので貸してもらっていいですか?」と言われたので、筆者は「いいですよ」と答えた。
友人にでも借りるのだろうと思っていたら、学生は教壇の方を見て座ったまま…
「ハッ!」と気付いた。私の教科書を借りたいということか!
だったら「先生のを貸していただけませんか?」とお願いするのが普通の言い方ではないだろうか。
許可を求める形をとって、実は相手に依頼する言い方になっているのである。

少なくとも目上の人に対してはきちっとお願いする形をとらないとおかしいと思います。

副題は「敬語コミュニケーションの行方」となっており、現在の用法は変化なのか乱れなのか…日本語について考えさせられました。
by himaru73 | 2009-12-20 22:37 | 石いろいろ

日常の出来事あれこれ。  ときどき「石」。


by himaru73