黒龍の柩 -北方謙三ー
2011年 06月 03日
土方歳三はストイック、これは学生時代に読んだ司馬遼太郎氏の「燃えよ剣」による認識。
自らの死に場所を求めて函館に行き着き、念願通り本懐を遂げた。
我欲で戦地を転々としただけなのに、幕末史において絶大な人気を誇るのは何故だろうと疑問だった。
所詮は「副長」でしかなく、大した器ではなかったのではないかという思い込みは、表題の書に出会ったおかげで瓦解。
池田屋事件から始まって、函館戦争終結まで。
真相とはかけ離れていそうだが、幕末の混乱期を背景にした物語の進行としては全く無理がなく、スケールは壮大。
徳川埋蔵金にまつわる小栗忠順なる人物に関しても、少しは理解が進む。
徳川慶喜の非戦決意とその行動、そして何が何でも徳川家存続を図るという勝海舟の心情の描写が見事。
榎本武揚率いる海軍が不運続きで、あと一歩というところで挫折。
勝が自分の信条に従って起こした行動が結果的に土方への裏切り行為となり、あえなく夢は潰える。
見事などんでん返しを使って、最後は史実通りの結末に収束させるのは筆者の力量、さすがである。
竜馬が大天才であることを勝を通してアピールする反面、榎本は優柔不断、大鳥圭介は能無しとしてバッサリ断罪。
ひとかどの人物であろう両者を徹底的に愚者に仕立てるなど、人物描写のコントラストが際立っていて面白い。
いまだよく知らない榎本や大鳥についても読んでみようという気になる。
西郷隆盛を竜馬暗殺の首謀者としてとんでもない悪者としたのは、物語の構成上必要だったのだろうと推測する。
最後の最後に、「そういうのもありか」という大どんでん返しがしっかり用意されている。
そういえば、最初から伏線があったではないか、とニヤリ。
歴史小説は面白い、そして北方謙三はもはや病みつき!